| ＜１１月７日（土）レース前日＞ ＰＭ１１：００下曽根寮の前に集合した。メンバは小方さん、河島さん（安 川電機）、私の３人である。目的地は岡山県のＴＩサーキット。 貧乏な私達は、高速代をうかすため深夜国道を走ることにした。 前回（春）のレースもＴＩサーキットまで国道を走っていった。その時のメン バーは、今回のメンバーに中村さん（購買部）を加えた４人で、車は河島さん の愛車レガシーだった。河島さんの車両保険が２６才以上限定であったため、 当時２５才の私は運転を交代しなくても良かった。 今回は、私も２６才の誕生日を迎えており、運転交代は仕方ないと覚悟を決 めていた。しかし、ラッキーな事に、今回ピカピカの新車アリストを出す小方 さんは車両保険に家族限定を付けていた。これでは、私が小方家に養子に行か ない限りは運転ができない。泣く泣く今回もナビに徹することにした。 今回は、３人ということもあり、高級車アリストには大人３人が楽に座れる。 しかも、ナビに徹するはずの私は後部座席を確保することに成功した。 ＜１１月８日（日）レース当日＞ 出発して３時間ほど経った時、頭の片隅で話し声が聞こえる。気が付くと、 そこは広島県らしい..。そう、ナビに徹するはずの私は熟睡していたようだ。 しかも、自分の姿を改めて見ると高級車アリストの広い後部座席にしっかりと 横になって寝ている。メンバーの中で最年少の人間のする行為ではない..。 目を覚まし少し気まずく小方さんと河島さんの顔を見るが、２人は気にする様 子もなく笑っていた。良い人達だ！ それとも、私がそういう人間である事を とっくに知っていたのであろうか..。 それから次に目を開けるとＪＲ岡山駅がそびえ立っていた。やっと岡山駅ま で来た！やっぱり遠いなぁ..と、私以外の２人は強く感じたことに違いない。 岡山市内迄は思いのほか早く着き（ＡＭ６：００）、１時間ほど時間をつぶす ことにした。フロ好きの３人はサウナを探したが、６０分１５００円と高かっ たためサウナをあきらめ、ファミレス（ガスト）に入った。 日曜日の早朝ということもあり、店内にいる客は、朝帰りらしき若者や、朝の ジョギングと偽ってきたようなジャージ姿のオヤジなどバラエティーに富んで いた。その中で眠そうな男３人の私達は、他の客の目にどう映ったのだろうか。 小方さんと河島さんは、朝からハンバーグを注文した。ここで日頃栄養のある 食事をしていない独身者と、そうでない既婚者との差がでることになる。私は 質素にシャケを注文することにした。腹ごしらえを済ませ、途中コンビニに寄 り昼食を買い込んだ。前回は、レース場まで行き、店がなくて困ったためだ。 ＡＭ８：３０頃、ＴＩサーキットに無事に到着した。 入場券とパドックパスは、兵頭さんのコネと、河島さんの知合いのコネで安く 手に入れることができた。感謝！ サーキットの中に入ると既に予選レースが始まっていた。兵頭さんの出番ま で暫く時間があった。いつもの事だが、私達はレース前に兵頭さんのいるピッ トに顔をだすことをしない。これは、レース前で緊張感の張り詰めている現場 の雰囲気を乱したくないためである。 ここまでずっと運転して来た小方さんは、疲れているので当然仮眠するかと 思いきや「三浦君、ビール飲まない？」と聞いてきた。慣れない車中泊で風邪 気味の私だが、年上の小方さんに言われると仕方がない、３人で取り合えず「 お疲れ様！」と乾杯した。 ビールが効いたのか、疲れも手伝い３人はメインスタンドの座席で横になり 誰先となく眠りについた。私は充分睡眠とっていたが..。 そうこうしていると兵頭さんの予選が始まった。予選は、スタートが見れる メインスタンドから観戦することにした。兵頭さんを含む選手がスタートグリ ッドに並び、選手の紹介がアナウンスされた。兵頭さんは２番目に紹介され、 「九州から国道を走ってここまで来ました。大変きついです。」というコメン トがウケていた。その時！ 「おっと、その兵頭選手、マシンの調子が悪いようです。」とアナウンスされ スタートグリッドを見てみると、兵頭さんとマシンが隅に追いやられている。 そうこうしているうちに予選はスタートされ、兵頭さんとマシンはピットに戻 ってしまった３人は目を疑った。脳裏に「予選を走れないということは、決勝 レースにも出られない」と不安が過った。応援に来た私達も残念だが、それ以 上に、仕事で残業がある中、寝る時間も惜しんで準備して来た兵頭さんの気持 ちを考えると何ともやるせない気持ちになった。 何と声をかけて良いか分からず、３人言葉少なにピットに向かう。 ピットの前は、露店が出されにぎやいでいた。そこを３人でトボトボと歩いて いると、モトコンポに乗った兵頭さんが私達を呼びとめた。何と言って良いか 迷ったが「どうしたんですか？」と尋ねた。スタートグリッドでオイルを吹い たということであった。「で、決勝へは出られないんですよね？」と尋ねると 、「オイル漏れの原因が分かったので、嘆願書を出せば出走できると思う。」 と笑顔で答えてくれた。３人は一変して気が楽になり「頑張って下さい。」と 伝え、決勝まで露店などで時間をつぶすことにした。 寝ては食べでを繰り返しＰＭ１６：００頃、兵頭さんの決勝レースが始まっ た。予選を走れなかったため、最後尾からのスタートとなっていた。 決勝は、観戦ポイントを変更して第１コーナを曲がり終えたＳ字の始まりの所 で観戦することにした。スタート前のアナウンスがされる。ここからは、スタ ートグリッドの様子は全く見えない。その時！ 「おっとゼッケン８番、兵頭選手のエンジンがかかりません！」の声がした。 ３人は「えっ！」と顔を見合わせた。それからの数秒間がとても長く感じたが 、「ゼッケン８番の兵頭選手も無事にエンジンがかかった模様です。」のアナ ウンスが続いた。「ふぅ〜」３人は揃ってため息をついた。 無事スタートして、最初に３人の前を通り過ぎた時は、兵頭さんは９位か１ ０位くらいであった。最後尾からのスタートにしてはまずますだと思った。 ちなみに私は、兵頭さんのレースを見るまでは、まったくレースに興味がな かった。バイクを買うのは好きであったがプラモデルの延長でしかなかった。 しかし、兵頭さんのバイブルである「バリバリ伝説」を全巻貸してもらってか らは、レースを見る目が少し変わった。（と思っている。） 兵頭さんや小方さんは、私のことを毒舌評論家と呼んでいる。何に関しても影 響されやすい私は、いつもレースを見に来ると自分もサーキットを走ってみた くなる。今回も例外ではなく兵頭さんの走りっぷりを見ていると、自分も同じ コースを走ってみたい衝動にかられていた。 そんな事を考えながらもレースは中盤、兵頭さんは激しい７位争いをしてい た。その時！３人の観ているポイントから良く見える対面のコーナで、兵頭さ んの後ろを走っていたマシンが勝負にでた。しかし、無理にインをついたのか 兵頭さんのマシンの後輪付近に接触してしまった。兵頭さんはその衝撃では転 倒しなかったが、コースアウトしてしまった。遠目からは止まれたかに見えた が、その直後にマシンは前のめりになり、兵頭さんは頭から落下して何回転も して転がっていった。人があんなに簡単に宙を舞うものなのかとゾッとした。 転がっている間がとても長く感じたが、一瞬のことだった。転がり終えた兵頭 さんは、即座に立ち上がりタイヤバリアの上によじ登った。「動けるんだ！」 と３人は同時にホッとした。後で聞いた話だが、兵頭さんは後続のマシンや人 が転がってくる恐れがあるので、即座に判断してタイヤバリアの上によじ登っ たらしい。あの瞬間に痛みを忘れることのできる精神力／判断力／プロ意識を 見せつけられた瞬間だった。それと同時に私の「同じコースを走ってみたい」 という気持が瞬時に冷めていったことは言うまでもない..。 レースは続いていたが、兵頭さんの容態が気になりピットに向かった。 ピットに付いたときは、兵頭さんはマシンの周りで他の人と話をしていた。 大丈夫のようで取り合えず安心した。兵頭さんは３人を見つけると「悪かった ね。折角観に来てくれたのに。」と声をかけてくれた。兵頭さんの奥さんも同 じように声をかけてくれた。 これで兵頭さんの秋のレースが終わった。兵頭さんは転倒したレースの後に も関わらず次のレースのことを考えていた。いつもレースを観ていると忘れさ せられるが、これは兵頭さんの趣味なのだ。お金を貰っているわけでもなく、 何の報酬があるわけでもない。これだけ熱くなれる趣味をもつ兵頭さんと、そ れを理解して応援してくれる家族はとても素晴らしいと感じた..。 私も「痛くない」趣味を見つけようと心に決めた秋のＴＩサーキットであった。 |